事務職への転職を考えている方や、勤め先の会社で人事部や総務部に異動になった際、
このように悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。
従業員として毎月受け取っていた給与を、自分で計算するというのは中々想像できませんよね。
今回は給与担当の初心者・未経験の方でも仕事のイメージやしやすいように、給与計算業務の全体像から、実際に行う際の注意点を分かりやすく解説いたします。
私は社労士として、従業員が1名の企業もあれば500名を超えるような、地方では大企業に位置する会社を30社ほど担当しておりました。 実際に仕事をするにあたり、私がどのように給与計算を行っていたのか、どのような点が大変だったのか等、実体験を元にお伝えいたします!
給与計算の担当になるために勉強をしたい方や、事務職に転職を考えている方に、ぜひ受験を考えていただきたい資格が「給与計算実務能力検定」になります。
検定では、給与計算に関わる上で必要な「労働基準法」をはじめとする様々な法律から、実際の実務を想定した問題まで幅広く出題されます。
人事・労務の仕事に興味がある方についても、勉強しやすい内容になっていますので、オススメです。
資格に興味がある方は、クレアールより無料の資料請求ができます。合格に向けた講座の案内ですが、独学で勉強する方でも検定の特徴や対策方法が確認できるのでぜひご確認ください。
給与計算とは?
大学を卒業して働く社会人の方だけでなく、高校生ながらアルバイトを頑張っている方も、毎月決まった日に勤務先から
- 働いている時間に対する報酬
- 一定の成果に応じて支払われる対価
として、給与を受け取っています。
「働いた分だけ支払われる給与なんだから、時給1,000円・8時間働いたから8,000円みたいに給与計算って単純では?」と思われることもありますが、
交通費や今月の残業手当はどうするのか?
税金や保険料といった控除される金額はいくらなのか?
それぞれを計算すると、手取りで支払われる金額はどうなるのか?
支払う給与を確定させるためには上記のような多くの要素が関係しており、計算しなければいけません。
また、給与は従業員の生活に直結しますので、振り込み金額を間違えてしまうとトラブルの種になります。従業員の生活インフラを支えるための、大切な仕事なのです。
給与計算の担当者になったら
「やりがい」「心構え」「知っておいてほしい知識」「気を付けること」について、実体験から解説しますね!現場の裏側も少しお伝えできればと思います。
給与計算にやりがいはあるの?
給与計算は事務仕事なので、淡々と作業をするだけのイメージがあるかもしれませんが、従業員の生活インフラを支えるために間違えてはいけないため、「緊張感」や「責任感」は他の事務仕事よりも発生します。
その分大変ではありますが、毎月やりきったという達成感は常に味わうことができます。
また、給与計算は
- 労働基準法や最低賃金法といった労働に関する法律
- 所得税や住民税といった税金に関する法律
といった様々な法律が仕事に関係しておりますので、毎月計算を間違えずに行うためには勉強が必要です。裏を返すと勉強した内容が仕事に直結しますので、面白い仕事なのです。
必要な心構えについて
先ほど「緊張感」や「責任感」があるとお伝えしましたが、次に心に留めておいていただきたいポイントは心構えです。
給与計算では次の4つのポイントを意識するだけで、担当者になったときに「何をすればいいのか」が分かります。
いざ仕事をするときに、慌てたくない方は念頭に置きましょう。
- 専門性……法律や社会保険といった専門的な知識を高める
- 安全性……機密的な業務のため、各従業員の給与情報は確実に管理する
- 確実性……計算結果間違えずに、的確に処理をする
- 効率性……期日を厳守するために業務を効率よく進める
私は社労士事務所で30社程給与計算に携わっていましたが、この4つのポイントを意識していため大きな失敗もせずに仕事をすることができました。
知っておくべき知識とは?
給与計算業務は、流れに沿って進んでいきます。このとき、仕事に関連する「法律」と「会社のルール」を知っておくとより円滑にできますので、関わりのある内容は一通り確認することをおすすめします。
一見、法律などが並んでいますので難しそうに見えますが、最初から覚える必要はありません。
どの法律が仕事に関係しているのか知っておくだけで大丈夫です。法律を勉強したからと言って、実務はできません。
大切なのは、実際に仕事をして躓いた際に、
「この部分は労働基準法に関係していたはずだから、調べよう」と、仕事におけるヒントに気が付けるかどうか、です。
ちなみに労働基準法や健康保険法といった法律は、給与計算の仕事だけでなく、働く環境そのものに関係しますので、比較的覚えやすいのではないでしょうか。
気を付けておくべきこと
給与計算で正確性や専門性が大切と伝えましたが、
- ミスをした場合は必ず報告する
- 法律を守れていないケースがある
上記2点は、給与担当者になる際に意識してほしいポイントになります。
ミスは必ず報告し、翌月に調整する
仕事に失敗は付き物です。給与計算はミスをしてはいけないと冒頭から解説しておりますので矛盾を感じるかもしれませんが、
- 数字の入力を間違えた
- 記録されていた労働時間が誤っていた
といった理由で、計算ミスをしてしまうことはあります。
しかし「間違った給与を従業員に支払ってしまった……もう取り返しがつかない」と思い込んでミスを隠してはいけません。
間違えてしまっても、翌月の給与計算で差額調整できますので、きちんと報告し、次の仕事で挽回しましょう。
必ず法律を守っているわけではない
多くの法律が関係している仕事ですが、
全ての会社が法令順守できているわけではありません。
むしろ、中小・零細企業における労務管理は整っていないケースが多いでしょう。
具体例として、残業時間の集計について考えてみると、
原則的には、毎日の時間外労働は1分単位で正確に計上するのが正しい労働時間管理といえます。労働時間の端数計算を、四捨五入ではなく常に切り捨てで計算することは、切り捨てられた時間分の賃金が未払となるため認められていません。
引用元:https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi/jikangai.html(大阪労働局)
が法的に正しい取り扱い方ですが、働く会社によっては
- 15分単位で残業申請をするように社長から言われている
- 定時後30分経ってから、残業時間の扱いになる
このようなルールで残業時間の集計をしている企業も少なくありません。法律違反のルールを運用する背景には、
- 仕事に集中していない時間
- 雑談ばかりで手が止まっている時間
を咎めない代わりに1分単位ではなく15分単位で残業扱いとしているケースがあるのです。
給与計算担当者になると違和感を覚えるルールもありますが、1分単位で支払う代わりに私語も許されない環境になってしまうと働きにくくなりますので、法令順守と実態についてはバランス感覚が必要です。
とは言っても、法律を守ることは”普通”です。単に残業代を払いたくないから30分単位でという経営者は問題ですので、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
給与計算業務の構成
給与計算について「余計に難しいイメージになった」「事務仕事の中でも大変そう」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、給与計算は一定のルールに基づいて行う仕事です。
毎月ルーティンでやることは大きく変わることはありません。初心者・未経験者の方でも、4つのカテゴリを押さえておくことで、スムーズに仕事ができますので安心してください。
給与計算業務を行うゴールは
「従業員へ支払う給与の金額を確定させる」ことです。
会社によっては進め方が若干異なる場合もありますが、次の4つのカテゴリはどの企業においても必要な作業になりますので、覚えておきましょう。
- 従業員管理………今月に給与を支払わなければいけない人はだれか?
- 勤怠集計…………従業員個人ごとに、今月は何時間働いたのか?
- 給与計算…………勤怠結果を元に、今月支払う必要のある給与はいくらか?
- 帳票書類作成……従業員に渡すための明細書などを作成
それでは各カテゴリで、どのような仕事をしているのか解説いたします。
私も初めてクライアントの給与計算担当者になったとき、緊張しました(笑)
間違えたらどうしよう、と不安な気持ちで仕事をしていましたが、慣れてしまえばほとんどの作業をルーティンで行えます。一連の流れを頭に入れて、スムーズに仕事をしていきましょう!
従業員管理
給与計算を始めるにあたって、最初に行う業務は給与を支払う対象者の整理です。
- 今月新しく入社した方や退職した方はいないのか?
- 産休・育休のように長期的に休んでいる人や復帰する人はいないのか?
このように、計算をする前に今月の給与は誰に支払う必要があるのか確認しなければいけません。
従業員が数名しかいない企業の場合はすぐに終わりますが、人数の多い企業だと入社・退社は日常茶飯事です。
中途入社や退職者がいる場合、務めた日数によって日割り計算をするなど特殊な取り扱いが発生しますので、注意しましょう。
勤怠集計
誰に支払うのか確認ができたら、勤務実績を集計していきます。厳密には、従業員管理と勤怠集計は平行して行うことが多いです。
勤務実績を集計する目的は、給与の支払い根拠となる数字と、控除根拠となる数字の確認です。
給与は労働の対価として支払われるものですので、支払い根拠には労働時間や残業時間が該当します。
裏を返せば、働いていない時間には給与は支払われませんので、遅刻・早退や欠勤をした場合は給与から惹かれますので、控除根拠となります。
この作業を従業員1名ずつ・一か月間にそれぞれ何時間あったのか、集計します。
タイムカードやクラウド型のシステムで管理する企業が増えています。そのため、一人ひとりの確認も意外と簡単に行えますよ。
給与計算
勤怠データの集計・確認ができたら、次はいよいよ給与計算です。
会社で利用している給与計算のシステムに、集めた勤怠データを入力していきますが、
- 勤怠データを正しく入力できているか?
- 変更が必要な例外的なデータはないのか?
上記2点は注意しましょう。給与金額の算出は、入力した勤怠結果を元にシステムで自動計算されますが、
入力している数値が間違っていると計算結果も異なります。
集計元がExcelなどの場合、システムに手入力せずともインポートできる場合が多いですが、取り込み時にエラーがある可能性もありますので、目を通すことは重要ですね。
勤怠実績に基づいて、今月支払われる給与金額が算出できましたら、その内容の確認に移ります。
従業員に支給される項目と、金額から控除する項目の2つに分けることができますので、よくある内容を見ていきましょう。
支給項目確認編
支給項目で主に確認する内容は、
- 勤務日数に応じて基本給や業務に関連する手当は計算できているか?
- 残業時間に応じて、残業手当は計算できているか?
- 交通費や各種手当は会社のルールに基づいて支払われているか?
基本的に基本給や業務上の手当は毎月固定的に支給されますので、昇給や昇格がなければ前月と同じ金額になっているのか確認する程度で大丈夫です。
ただし、残業手当は残業時間に応じて毎月変動するため、勤怠集計の結果通りに計算ができているのか随時チェックしましょう。
控除項目確認編
控除項目で主に確認する内容は、
- 遅刻早退や欠勤時間がある場合、その時間数分給与から減額できているか?
- 所得税率や各種保険料は適切に計算できているか?
給与から天引きされる項目も、毎月大きく変わることはありません。
ただし、各種保険は加入していないと控除する必要はありません。新しく入社した方がいる場合は、保険に加入しているのかどうか事前に確認することをおすすめします。
各種帳票書類作成
支給項目・控除項目が問題なく計算できていたら、最後のステップです。計算結果を従業員に通知するために、給与明細書や、銀行への振り込み依頼書の発行をします。
給与明細書の作成は紙やWEB明細と企業ごとに異なり、担当者に求められる作業を比較すると
このように違いがあります。紙の明細書の場合は紙を折り封筒に入れ込むなど、手間がかかる作業もありますので、忍耐強さも必要かもしれません。
銀行への振り込み依頼書も、基本的には給与システムからボタンひとつで抽出できますので、従業員ごとの振込口座さえ登録しておけば問題はないでしょう。
社労士事務所で給与計算を担当していた頃は、約500人分の給与明細を印刷・封筒封入の作業を受けており、その作業だけは苦手でした(笑)
給与計算担当者として活躍するために
給与計算の仕事はやればやるだけ理解が深まります。そのため、思い切って実務にチャレンジいただきたいですが、実際に私が30社の給与計算担当をする中で、役に立った勉強方法などをお伝えしますね!
必要な資格はある?
結論、給与計算に資格は必要ありませんが、
- しっかりと知識を付けて仕事に取り組みたい
- キャリアアップを目指している
このような方には、給与計算実務能力検定の取得をオススメします。
給与計算実務能力検定とは、文字通り「給与計算業務に関する知識と実務能力を測定する検定試験」です。社労士事務所で勤務していたり、一般企業の総務部や人事部で仕事をしていると、聞いたことがあるかもしれません。
試験には2つの難易度が設定されています。
- 2級……基本的な処理から、給与明細書の発行まで。給与計算担当者向け
- 1級……労働法や税法を理解し、様々な制度に対応。給与計算のリーダー職向け
ご自身の状況に応じて選べますので、合格目指して取り組みましょう。
1級の検定は、社労士資格を持っている私も難しいと感じる問題が多く、実務能力が鍛えられました。
資格学校のクレアールで、給与計算実務能力検定について無料で資料請求ができます。どういった検定なのか、独学で勉強する方でも役立つ情報が書かれていますので気になった方はまずはチェックしてみましょう。
ボタンをクリック後、必要事項を記入して「給与計算実務検定講座資料」を選択するだけでOKです!
試験の内容については、こちらの記事で詳しく解説していますので併せてご確認ください。
未経験者に特にオススメな本2冊をご紹介
資格の勉強は少しハードルが高い……。でも基本的なことは勉強しておきたい。
という方は、まずは実務書籍を読みましょう。
具体的な業務の流れだけでなく、給与計算をする上で「ありがちなミス・その対処法」や「給与計算に関係するその他の業務」を解説している本もありますので、ぜひ確認してください。
今回は私が実際に活用・愛用していた本の中から、未経験者の方に向けておすすめの2冊をご紹介します。ぜひ参考にしてください!
まるわかり給与計算の手続きと基本
給与計算業務は、法律が関係している仕事のため年によっては若干気を付けるポイントが変わります。
本書は毎年発刊されており、その年に必要な情報が集約されています。最新版を持っておくと一年を通して安心して給与計算に取り組めますので、総務部や人事部に一冊置いておきたいですね。
また、本の作りも給与計算初心者の方に読みやすいように
- フローチャートや図を用いて整理
- 全体的な業務だけでなく、実務上の気をつけるべきポイントが記載
といった、各要点を押さえた作りになっていますので、入門書として購入することをオススメいたします。
- 給与計算業務の基礎を学びたい方
- 給与担当になるために一連の業務を確認したい方
こんなときどうする!?社会保険・給与計算 ミスしたときの対処法と防止策30
次に紹介する本は、
社会保険労務士・宮武貴美先生が著者の本になります。人事部や労務担当者の方であれば、一度は見たことがあるであろう「労務ドットコム」という人事労務の情報サイトを管理している先生で、信頼ができます。
この本の特徴は、給与計算やそれに関係する労務管理業務でよくあるミスや、間違えやすい事例が解説されている点であり、各事例について
- 起きたミスに対して、どのように対処すればいいか?
- なぜミスが起こってしまったのか?
- 今後ミスを防ぐためにはどうすればいいのか?
この3つの観点から非常に分かりやすく、まとめられています。
知り合いの社労士に本書を薦めたところ、
「給与計算を間違えてしまったときに、すぐに対応するための内容が書かれていて大変助かった。宮武先生が執筆しているだけある」と絶賛していました。
社労士の目線でも重要なことが書かれている、魅力的な一冊ですね。
- 万が一給与計算で間違えてしまったときの対応方法が知りたい
- ケアレスミス防止のために注意すべき点を勉強したい
まとめ
今回は給与計算に興味がある方や、初心者・未経験者の方に向けて、給与計算の本質的な部分から実務の流れを解説いたしました。
会社ごとに細かい内容は異なりますので注意が必要ですが、ぜひ今後の給与計算業務の参考にしていただけますと幸いです。
途中でご紹介している給与計算実務能力検定や、実務に役立つ本については別の記事で深くお伝えできればと思います。
給与計算を通じて、企業や従業員を支えていきましょう!
給与計算がどのように構成されている仕事なのか解説します。