こんにちは、社労士Campusのknotです。
従業員と企業の間で労働条件を巡るトラブルが近年増加しており、社会保険労務士の認知度も比例して高まっています。そのため、社会保険労務士の資格合格を目指す方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように、社会保険労務士試験に興味を持っている方や、今後勉強を考えている方、また、既に勉強をしているけれど改めて心構えを知りたい方に特にオススメの記事となっております。
本記事では、25歳で社会保険労務士の試験に一発合格(当時の合格率4.4%)後、社労士として働いた経験から社会保険労務士の試験の概要や知っておくべき3つのポイントをお伝えいたします。
私も社会保険労務士の資格を目指しているときは、
「社会保険労務士 資格」「社会保険労務士 試験」
とよく検索をしておりましたが、中々イメージを掴むことが出来ませんでしたので、そういった方に一助になれば幸いです。
社会保険労務士試験の概要

2020年(令和2年度)の試験までのスケジュール
例年、社会保険労務士の試験は申し込みから当日の試験まで同じようなスケジュールで動いておりますので、
来年以降受験を考えている方は2020年のスケジュールをぜひ参考にして下さい。
時期
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内容 |
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4月10日(金) | 試験に関する「受験案内」の開示 |
4月13日(月) | 受験申込書の受付開始 |
5月31日(日) | 受験申込書の締切(消印有効) |
7月17日(金) | 2020年の受験申込者数の公表(2020年は49,200人) |
8月23日(日) | 第52回社会保険労務士試験日 |
11月6日(金) | 合格発表日(官報公告および社会保険労務士試験オフィシャルサイトにて合格者の受験番号掲載) |
難易度・合格率
社会保険労務士は、難関資格に分類される国家資格です。
過去5年間の受験者数と合格者数、それに伴う合格率の一覧は下記になります。
年度 | 合格率(%) | 受験者数(人) | 合格者数(人) |
---|---|---|---|
2019年 | 6.28 | 38,427 | 2,413 |
2018年 | 6.75 | 38,685 | 2,613 |
2017年 | 4.43 | 39,972 | 1,770 |
2016年 | 2.58 | 40,712 | 1,051 |
2015年 | 9.33 | 44,546 | 4,156 |
受験者数はおおよそ40,000人前後と、安定して多くの方が受験されておりますが、合格率には波があるのが分かります。
2014年は9.3%と高い合格率でしたが、翌年2015年には史上最低の2.6%を記録し、受験者や資格学校の間で大変話題になりました。
私の受験した2016年は4.4%と、合格率は若干上昇し、翌年以降も過去の水準値に戻っておりますが、
2015年の合格率を見たときは、社会保険労務士の資格に興味を持ち始め、勉強をスタートするタイミングでしたので「来年(2016年)の合格率はどうなるのだろう?」「司法書士のように2~3%の水準になるのかな?」と怯えておりました(笑)
自身の経験から、合格率の推移状況が気になる方もいらっしゃるかと思いますので、直近10年の合格率のみを次のグラフにまとめております。

途中で大きな山と谷ができていますね(笑)
このような異常値はあまり参考になりませんので
過去10年間における合格率の平均値を算出したところ7.93%となりました。2020年、2021年の合格率も、7%前後の推移が予想できます。
100人中8人前後しか合格できない試験となっておりますが、
2015年・2016年のように極端に低い数値でもありませんので、諦めずに勉強をし続けることが大切です。
社会保険労務士試験に向けた3つの心構え

社会保険労務士試験の合格率は、なぜこんなに低いのでしょうか。
社会保険労務士試験には3つの心構えとも言える、注意点がありますので解説いたします。
試験範囲の広さ
まずは、8つの主要科目を見てみましょう。
労働基準法……第143条+附則
労働安全衛生法……第123条+附則
雇用保険法……第86条+附則
労働者災害補償保険法……第54条+附則
労働保険の保険料の徴収等に関する法律……第48条+附則
健康保険法……第222条+附則
厚生年金保険法……第105条+附則
国民年金保険法……第148条+附則
電子政府の総合窓口(e-Gov)を参考に作成
上記8つの法律だけでも合計929に渡る条文がありますが、この条文は「1条の2」のように枝分かれするケースや、附則といって法律に付随する文章もあるため実際に試験範囲となる条文数は1,000を優に超えることになります。
実際の試験では、この条文を元に出題されるケースも多く、暗記しておかなければ解けない問題もあります。
加えて、残り2科目の出題範囲は、主要科目以上に範囲が広いのです。
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 社会保険に関する一般常識
両科目とも一般常識と表記されていることから、「労一」「社一」と受験界隈では呼ばれておりますが、
「労一」および「社一」の範囲は下記のような内容です。
労働契約法・最低賃金法・職業安定法・労働者派遣法・男女雇用機会均等法・労働組合法・労働関係調整法・育児介護休業法・etc.
労働経済白書等の統計資料(2019年版:296ページ)
船員保険法・国民健康保険法・介護保険法・高齢者の医療の確保に関する法律・児童手当法・確定給付企業年金法・確定拠出年金法・etc.
厚生労働白書等の統計資料(2020年版:489ページ)
このように様々な法律や、統計資料から出題されるため、対策がしにくいのです。そのため受験生の多くの方が点数を落としやすい科目です。
全ての内容を暗記する必要は全くないのですが、広く・浅く知っておく必要があり、この出題範囲の広さが合格率を下げる要因と言えます。
法改正への対応
社会保険労務士の試験では、直近の法改正や裁判で争われた事例からも出題されます。
法律は毎年改正される可能性がありますので、一度覚えた知識であっても内容が変わる恐れがあるため、常に最新の情報をキャッチアップ・インプットしなければ対応ができません。
私が受験した2016年の試験では、前年に最高裁判決が下された専修大学事件(平成27年6月8日)から出題されました。直近の判決もチェックが必要です。
試験における「足切り」制度
「足切り」とは、1科目でも基準点を下回った場合、その他の科目で満点であっても不合格となる制度です。
社会保険労務士の試験は1日掛けて実施されるのですが、午前の部(選択式)と午後の部(択一式)の二部構成です。
試験科目
|
午前:選択式
計8科目(配点) |
午後:択一式
計7科目(配点) |
---|---|---|
労働基準法及び労働安全衛生法 |
1問(5点)
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10問(10点)
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労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む) |
1問(5点)
|
10問(10点)
|
雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む) |
1問(5点)
|
10問(10点)
|
労務管理その他の労働に関する一般常識 |
1問(5点)
|
10問(10点)
|
社会保険に関する一般常識 |
1問(5点)
|
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健康保険法 |
1問(5点)
|
10問(10点)
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厚生年金保険法 |
1問(5点)
|
10問(10点)
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国民年金法 |
1問(5点)
|
10問(10点)
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合計 |
8問(40点)
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70問(70点)
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この足切りは午前・午後それぞれの総得点数並びに各科目ごとに基準が設けられており、2019年の基準点はこのように設定されておりました。
1. 選択式試験は、総得点26点以上かつ各科目3点以上(ただし、「社会保険に関する一般常識」は2点以上)である者
2. 択一式試験は、総得点43点以上かつ各科目4点以上である者※上記合格基準は、試験の難易度に差が生じたことから、昨年度試験の合格基準を補正したものである。
そのため、選択式(午前)で基準点を全て超えていたとしても、択一式(午後)で一つでも基準点を割れてしまうと不合格になる厳しい試験なのです。
逆も然りで、選択式(午前)の手応え次第では、択一式(午後)を受けることなく結果は決まりますので、午後の試験を受けることなくお昼休憩中に帰る方もいらっしゃいます。
試験勉強が合格後にも活かせる理由

社会保険労務士試験の合格率の低さをまとめると、
- そもそも取り扱う法律の種類が多いため、試験範囲自体幅が広い
- 最新の情報をキャッチアップしなければいけないため、勉強が好きでなければ対応が難しい
- 試験には一定の点数以下になると問答無用で不合格となる「足切り」制度があるため、網羅的に勉強しなければならない
社会保険労務士は、労働・社会保険に関係する専門家として、企業側の期待値は非常に高く、
「従業員から繁忙期にも関わらず、有給休暇の申し出があったが一人でも休まれると事業が回らない。どうすれば良いのか?」
「従業員が問題を起こしたため解雇を考えているが、問題はないか?もし問題があるのであればどのように対応する必要があるのか教えてほしい」
「今後、別の会社を設立するにあたり非常勤役員を招き入れるのだが、その際の労働保険や社会保険の取り扱い方法を教えて欲しい」
現場の経験からすると、企業からこのような質問が日常的に寄せられているため、様々な法律を押さえなければ期待に答えることができないのです。
そのため、試験でも幅広い知識を問われることになり、かつ直近の法改正や判例の内容まで出題され、常に勉強ができる姿勢が求められているのではないでしょうか。
しかし、非常にやりがいのある職業につながる試験ですので、
ぜひ社会保険労務士に合格し、中小企業の「働き方改革」を支援していきましょう!
合格率の低さから「自分は本当に受かるのか?」とネガティブにならずに、
「社会保険労務士になって、必ずやりたいこと・夢を実現させる」
試験勉強のその先に未来を見据えて、前を向くことが大切です。